第一話:猫のいる部屋
この話はですね、アタシの仕事仲間のスタッフがしてくれた話なんですけどね。
「細川さん、実は僕の友達が・・・」って真剣な顔で言うんで聞かせてもらったんですよ。
その彼の友達っていうのは、独身で一人暮らし。男のやもめ暮らしっていうのも寂しいもんだから、猫を飼ってったつうんですよ。かわいいもんですよね。青年と猫ちゃんの二人暮し。
そもそも、その猫ちゃんっていうのも、子猫のときからその青年が飼っていたものじゃなくて、既に出会ったときから結構年寄りだったていうんですね。 数ヶ月前、窓なんか開けてたら、ふらふらっと家の中に入って来ていつの間にか住み着いちゃった。人間を恐れないし、彼も本来動物好きだったそうです。じゃあっていうんで、狭い1LDKなんかで、大家さんに内緒で猫ちゃんとの共同生活が始まったわけだ。
青年も優しい性格なんでしょう、一人身の寂しさも紛れるし随分かわいがってやってたらしんですよ。
平日、彼が働いている日中なんかはですね、ちょっと窓を開けっぱなしで仕事に出かけると、この猫は、トイレなんかは外ですましてくるわ、ご飯も外で食べてきてるみたいなんですね。猫好きな方結構いらっしゃいますからねぇ、どこかで貰って来てたりするんでしょう。
もちろん彼も、猫の缶詰なりを皿に盛って毎日仕事に出てたらしいんですね。 仕事から帰ると皿の上はちゃんと綺麗になってるし、うっかり餌を置いて出るのを忘れた日なんかも、帰って来ても例の如く腹を空かせた様子もありゃしない。すやすやと彼のベッドの上で先に寝てる。
で休日なんか、彼がいるときに、猫の様子見てたら家にいるときは、よぼよぼと外に用を足しに出たり、おやつをもらいに行く以外は、ずっと寝たままだっていうんです。
そりゃそうですよね、猫は寝るのも仕事ですからねぇ。それが当たり前ですよ。
年寄りのせいか、時々死んでるんじゃないかっていうくらい、寝息も立てずに寝てたらしんですよ。寝てるときは微動だにしない。一日中そんな感じだったそうです。
逆にね、子猫なんか飼っちゃうと暴れるは寂しがるは躾けにも手間がかかる、彼も昼間働いて家に居ないわけだ、面倒が見れない。
それを考えると、まったく世話がかからない猫だったって話です、えぇ・・・。
ところが、ある日、いつものように夜遅く彼が家に帰ると、玄関開けて廊下正面まっすぐ、猫が暗闇の中でこっち向いて座ってたっていうんです。
彼びっくりした。暗闇の中、玄関の灯りを反射して猫の目だけがキラキラ光ってる。
なんだ、お迎えなんて珍しい。
いつ帰っても、彼のベッドの上で寝てるところしか見たことない。玄関に迎えに来てくれるなんて初めてだ・・・。
彼ね、嬉しくて猫の頭を撫でてやろうと、靴を脱いで上がろうとしたとき気付いたんだ。
・・・あれ・・・ん?
・・おかしい・・・・・違う・・・・・・。
猫の様子がいつもと違う。
いつもは眠たそうな顔をしてばかりなのに、この時ばかりは違ったらしいんですよ。
おかしいんだ、というのは。
何かに警戒するように、一身にこちらを見つめてる。
目も動かさずにこっちを見てたっていうんです。猫が何かを警戒してる。
おかしい。おかしいんだ。どうしたんだろう。
明らかにいつもと様子が違う。
彼、なんだか怖くて靴を脱ぎかけた足を宙に上げた動けない。嫌な汗が落ちる。
その時だ、

「お前が背負ってるのは誰とよ!?」
と老婆のような枯れた声、まるで戒めるような声が、猫の方から、した!!
え!?
猫がしゃべった!?
彼とっさに理解できない。
うわぁー。
もう、声になりませんよねぇ。
暗闇の中の猫も怖いけど、背負ってるってなんだよー、おい。
彼、頭がPANICREWになっちゃった。
えっ?えっ?
彼もう動けない、前にも後ろにも、・・・戻れない。
周りの空気も違う、明らかに、違う。張り詰めてる・・・。
息苦しいんだ、首を絞められてる感じもする、もうだめだ。
彼、そこで、意識がスゥーっと遠のいっちゃった。
意識を無くす前、暗闇に光る猫の二つの目がまだこっちを睨んでいるのを見たそうです・・・。
で、彼、翌朝玄関で目を覚ました。
なんだったんだろう、昨晩のことは・・・、別に飲んでた訳じゃないのに、って彼、不思議でしょうがない。
猫だ、猫はどこ行ったんだ?彼、部屋中探したけど猫がどこにもいない、窓も閉まったままだ・・・。
それきり、猫は家を出て行ってしまったそうです。
別に彼自身も、それ以降、何か災難に見舞われることもなく今も猫のいなくなった部屋で生活しているらしんですがね。
いやあ〜、スタッフの子から聞いたとき、思わず鳥肌が立ちましたよ。 ありふれた話ですけど、ね。
どうやら、不思議なことって世の中たくさんあるみたいですね。
もし、その猫が本当にしゃっべったのなら、彼の背中に何が乗っていたんでしょうね。
歳をとった動物って不思議な能力を持つって言いますからねぇ。
何か見えて、彼に警告したのかもしれませんね。
その彼がこれからも無事ならいいんですけどね、えぇ。
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