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***継ぎ目の無い知恵の輪をしているよう***





 ここ最近色々ツイてなかった。
 難儀な親知らずのを三本抜くのに一ヶ月半かかった。
 その間にいろいろと制約事項もたくさんあり、守る守らないとは別に口の中が痛くてしゃべるのもままならなかった。
 精神的なダメージは大きく本当に参ってしまった。
 このチコリも話はあるけど一ヶ月半更新してなかった。
 「チコリを更新しなきゃ、チコリを更新しなきゃ」とか思いながらも筆が動かなかった。チコリコリ。

 ああ、頭の中がダウンだ、ヘビーだ。いいこと何もナッシングだ。長きバッドディスが続いている。溜まっている、何かがすんごく溜まっている。京都の四条通り沿いのマンションに住んでいたときは、排気ガスで洗濯物が真っ黒になっていた。仕舞い忘れて二日続けて出しっぱなしにしていたときなんか、洗濯したはずなのに黒く汚れてしまっていた。そんな洗濯物のような気分だ。心の洗濯がしたい。
 憂さ晴らしだ!


 声が出せなかった分、大きな声を誰の目も耳も気にすることなく出したい。なんなら叫びたい。世界の中心でもウクライナででも何処でもいい。気兼ね無く大声が出したい。
 しかしながら公園なりなんなりで、自力で訳の分からないことを大きな声で叫んでいたら即刻逮捕される。例え愛の歌だとしても逮捕される。理由はともかくそんなこと誰も許してくれない。
 ならカラオケだな。
 カラオケしかないな。
 レッツカラオケNo.1なんだな。

 部屋も完備されてるしマイクもある。プライベートも守られるし個室にカメラが無い部屋ならプライバシーも守られる。
 思う存分声が出したい。




 おまっとさんでした。チコリもガンガン更新して行きます(多分)。

 というわけで、ネットで最寄のカラオケ屋でフリータイムがあるところを調べて行くことにした。なんならオールナイトで一晩中歌いたい気分だ。
 そうだな、誰にも気兼ね無くオンリーロンリーでオールナイトで朝まで一人カラオケにしよう。


 場所は伏せさせてもらうが、わりかし近所に深夜11時から朝の5時まで平日なら1575円でオールナイトをやっているところがあった。昼間なら一時間80円だそうだ。安いもんだな。店側としては飲み物で元を取るしかないだろうに。
 これだけ安いと、実は屋外で石灰で線を引いただけの土地で歌わされるんじゃないかと一瞬思ったが、そこのHPを見た限りちゃんとしたビルの中に入っているようだ。


 早速、心の中で「行ける!」と日時を決め、その日の深夜11時前に家のドアとおさらばして実行に踏み切った。今度帰って来るときは朝なんだね。しかしなんだか凄く抵抗がある。一人でカラオケに行って昼間2時間くらい歌うというのは今ままでしたことはある。
 でもオールナイトで一人というのは初めてだ。受付で「マジで!?」とかタメ口吐かれて断わられたらどうしよう。そんなことになったら立ち直れない、二度と人としゃべらない、なんなら声出さない。人とコミュニケーションを取るときは縦笛かホラ貝を吹くことにする。



***ペンギンしつけ教室***




 憂さ晴らしのはずが行くまでの足取りはちと重い。




 カラオケ屋が入っているビル前まで来た。一階は駐車場になっていて二階は居酒屋チェーン店、三階にカラオケ屋が入っているありふれたテナントビルだ。
 車はガンガン通るがビルの周りに人はいない。・・・人はいないと書いた。人はいないが駐車場に抜ける通り道に犬が一匹でリールに繋がれていた。ちっちゃいパグ犬だ、パグが肛門をこちらに向けて足踏みしている。
 こんな時間になにしてるんだ、君は。誰待ちで繋がれているんだ?12月のこんな時間だ、気温は低いし風も吹いてるし結構寒い。赤いベベを着せられてはいるものの寒かろう、お尻まる出しじゃないか?飼い主は何やってんだろうね。
 犬は寒さに苦悩の顔も見せずに「はあはあ」言っている。・・・・・・お前、暑いのか?・・・犬の気持ちは良く分からない。
 人懐こくて触らしてくれるんだが、やけに肛門を向けてくる。ああ犬の気持ちは良く分からない。



***もん太朗***




 つかの間の「パグのひととき」だった。


 犬がかなり気になったがビル内に入る。目的は三階だ、エレベーターも付いているが、それはなんだかカラオケ屋のフロントまでの距離が一気に縮む気がしてなんだか萎縮してしまう。自分で調整出来るように階段で一歩一歩上ってカラオケ屋の入っている三階のフロアまで行くことにした。

 三階まで足を運びスライド式の自動ドアを抜けると小奇麗なフロアに出た。平日の夜を狙って来たのが良かったのだろう、フロアには客は誰もいなかった。週末ならフロアで待ってる人たちの目が一斉放火されるところだろう。先ほども書いたが、このビルは下の階に居酒屋チェーン店が入っているため流れ的にここに来る人が多いと思ったのだが、今日は平日、明日も平日なのだ。みんな早く寝ていい子だ。


 フロアに入るとカウンターの奥から受付のお姉さんが出てきた。一見怪訝な顔をした、明らかにした!おら見ただ!

 よっぽど「予約していた"胡弓を愛らしく奏でる会のメンバー"が先に来てるはずなんですけど、居残りで"蘇州夜曲"の練習してたら遅れちゃって!」

なんて、一人じゃないよ、みんなは先に来ているんだよと、大嘘をつこうと思ったが口から出た言葉は、

 「朝まで歌の練習したいんですけど。フリータイムってありますよね?」

とフリータイムを希望の意思をなんとなく伝えた。「よね?」の部分に力を入れてみた。それが全てだ。
 言い訳がましいが「歌の練習をしに来たんだよ、こちらは真剣なんだよ。」という虚無の設定も咄嗟に出てしまった。意思とかそういうものじゃなく、本能的に恥ずかしいんだ。

 11時過ぎてちょうど来ているわけだから、こちらがフリータイム狙いというのは既に見破られている。もう開き直るしかないじゃない。

 「お一人ですか?」

 そりゃそう言うよね。「後ろの連中が見えませんか!?あなたには見えませんか!?」なんて負け惜しみからの明らかな大嘘もつくことなく、「はい・・・。」

 一瞬間があった。
 「では、ただ今の時間ですとワンドリンクオーダー制で夜間のフリータイムになりますが、よろしいですか?」

 それです。それでげす。承認の「はい。」

 「無料で会員証を作れますが、お作りになられますか?」

 ネットで調べていたのだが、ここの会員になるとさらにカラオケ代は安くなる。元から子供の駄菓子代のような部屋代がなんだか小銭にかかる消費税程度のものになってしまう。
 人件費を差し引いてもここは元が取れるんだろうか?お客の下手な歌を密かに録音しておいて、後でそれをネタに強請るとか無いよね?「いい音の外れっぷりですねぇ〜、だんな。」とか言って。そりゃ無いけどさ、なぜかこっちがここの経営状態を気にしてしまう。

 これも調べておいたのだが、かといって飲み物の値段が「コーヒー一杯1000円(器代、税別)、器に入れて欲しければさらに1000円、じゃなければ手の平なり。」とかいう悪徳的な勘定の商法を取り入れてるわけでも無ければ、実は一曲づつ100円入れるタイプというわけでも無い(スナックにはまだあるんだろうか?そんなタイプの機種)。ドリンク・フード関係も良心的な値段で経営をますます心配してしまう。
 心配したところで一万円出して「釣りはいいよ。」と寛大な大物っぷりを当方が醸し出せるわけも無い。


 「あっ、はい。じゃあ会員になります。」

 これでこちらの本名も所在も知られた。機材に対して「まあ、お前も飲め!」とカルピスサワーをかけて壊して逃げれば、追っ手が請求書を握り締め追い駆けて来るということだ。

 提示された紙に必要事項を記入し終わると、「ではお部屋までご案内致します。」と、ホストのような若者がマイクやリモコンを入れたカゴを持って待機していた。

 なんだ、ここまで来れば断われることももう無いわけだ。週末とか混んでいるときは一人で来たら断われそうだな。同じ部屋ならたくさん人数入れた方が店側も収益的には嬉しいわけで、一人一部屋づつなんかされたらこの店は潰れかねない。元から安いのにそんな仕打ちは可哀想だ。

 ホストもどきについて歩く。
 各部屋は五分五分の埋まり具合というところだろうか?なんだ客いるんじゃん、歌声に混じって楽しそうな声が聞こえてくる。心の声が言う「皆さ〜ん、ここにお一人様ご案内ですよ。」

 今晩泊まる(?)こととなる、私だけの部屋、否、私だけの舞台は五・六人が入れるくらい広いものだった。「私なんぞにここでいいんですか?」と思わずホストもどきに敬語で問いそうになったけど飲んだ。
 歌手はleo、聴くもleo、飽きるのも辛いのもleolio。
 自問自答しないように、楽しい気持ちでいられるように頑張ろう。


 ソファーに腰を下ろすが如何せん広い・・・、嫌、ここは座り放題と捕らえるんだ、楽しい方に自分を持って行くんだ。・・・なんか無理してないか、私?

 ホストが問う、

 「リモコンの使い方はお分かりですか?」

 「あっ、はい」。どこもだいたい同じだろう。

 ホストは了承するとそそくさと部屋を出て行った。

 あれ?ワンドリンクオーダー制なんだろ、訊かないのかいマイオーダーを?飲み物のオーダーを取ってから部屋を出るものと思っていたから、なんか拍子抜けた。





***これも貸切と言うのか***




 これもネット調べていたことなんだが、ここの飲み物はジュースに対して「ジョッキ」「ピッチャー」という選択がある。それでも400円くらいなので安い方だ。またまた、ここの経営が心配になる。
 アイスコーヒーのジョッキがある。普通のカフェでは絶対出てこない。
 長期戦なわけで疲れた喉を潤す飲み物は絶対必要だ。


 ふぅー、ここまでやけに緊張した。広めの部屋に一人ポツネン。なんだか知り合い程度の人の家にいるときのような居心地の悪さ。落ち着かないったらありゃしない。

 まずはコートをソファーに広げ(なんか出来るだけソファーの面積を使わなきゃって感じになっていた)、フード・ドリンク関係の メニューを手に取る。食べ物は要らない。ああ、ジョッキがあった。ピッチャーでも構わないけどなんだかそれは憚れる。
 長期に歌を歌いたければ、喉を冷やしては絶対駄目だ。喉を冷やすのは喉を絞めることになってしまうので、アルコールも含め厳禁だ。伊達にヤマハで歌を二年半習った経験は無くしていない。当時、大辞林などかなり厚めの辞書を腹に乗せて腹式呼吸の練習などをしたものだ。

 温かい飲み物がいいんだけど・・・・・・、さすがにホットコーヒーのジョッキは無いなあ。それだとポットで丸々コーヒー作っちゃったのと同じだからね。


 あれ、リモコンでオーダーするのか?・・・・・・そうか、こんな時代なのにここは未だに電話でオーダーなのか?そこら辺の出費を抑えることにここの経営方針が見受けられる。


 壁にぶら下がっている電話機から内線で受付に電話する。


 しばしの呼び出し音の後に、「はい、カウンターです。」




 「あっ、オーダーお願いしたいんですけど。
ジョッキでコーラ一つ!


 ・・・・・すいません。上記で書いたことは忘れて下さい。だって緊張して喉乾いてたもんで「スカッ」っとしたかった。それ位では当方の喉は絞まらないといことにしておく。

 間もなくしてジョッキ登場。





***夏だといいかもしれないけど、今12月***




 これだけ波々だとなんか気分いいな。こういうものは早めに注文しておくべきだ。歌っているときに店員に入られる気まずさって、あれって凄く辛い。お酒が入っていて度胸が座っている時は平気で歌い続けるけどさ、どうも今日の私は弱っている上にさらに一人だ。いつも一人で色々やるけど、それが気楽なようで不安なときもある。

 まあいい、今日の曲の選択は誰にも気を使うこともない。好きな歌を思う存分歌い続けてやる。知らないような曲もどんどん歌ってやる。
 もう誰の目も耳も気にしなくていい。「流れ的に合ってるかな」「調子を崩してないかな?」「出来るだけ新曲歌わなきゃ」「下ばかり向いているなよ。」とか、そんな気遣い
一切要らない。

 ジャイアンリサイタルを催す際の剛田の気持ちってどんなのだろう。
 彼の場合、周りの目なんて気付きもせずに己の気持ちよさのためにリサイタル開いてるよね。しかもみんなも同じ喜びを感じていると思い込んで強要してるし、なんなら「聴かせてやる」精神だし。

 そうだ、剛田になれ!

 Be 剛田!

 「ほげー」って言う!


 試しにマイクで声を拾う・・・。我が声が虚空に広がって行く・・・。


 ああ!大声が出せるっていうか、
声が出せる!!



 よし!・・・誰もいないが出来るだけ強気になることにした。これからの六時間を楽しみたい。




 でもその前に恥ずかしいから部屋の明かりをちょっと落とそう。


 ・・・・・うーん、強気には程遠いかな?






Page2こと、六時間の一人カラオケマラソンの始まり。






   


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